ウソ日記

ない。ある。

 赤い積み木の中に迷い込みそうになってしまったので僕は青いくつを探した。ざらっとした質感の赤い積み木は、その名のとおり木で出来ているように思えるのだけれど、こんなに冷たい木はないよなとも感じる。3.0m*1.5m*1.0mのブロックで規格化されたその構造体は、幾重にも積み重なって空が見えない。
 空、今僕は不用意に空という言葉を使った。もちろん僕には空というものを見た記憶はないし、それがどういうものかは分からない。しかし、空と呼ばれるものが上に見えるのがあたりまえだという世界観が僕の中にあるらしく、今のような表現を使ってしまう。他の言葉についての吟味はもう行った。木に対応するものや積み木に対応するものを僕は知っているし、こういうものだと説明ができる。長さの単位についてだって、mというのがmankindから来ていると知っている。ただ、空という言葉とそれに付随するある種のニュアンス、これだけはどうにもならない。なぜその言葉を知っているのかさえ説明できない。だから僕は村を出ざるを得なかったのだけれど。
 青いくつは比較的すぐに見つかり安心した。虫の群れが居たので幾日分かを捕まえた。火で固く焼けば日持ちする類いのだ。雨が降ってきたので素早くテントを張った。このあたりの雨は蜂蜜のような味がする。これが赤い積み木の味だ。空というものがあるのなら見てみたいとは思うけど、それは冒涜のような気もしないではない。