ウソ日記

ない。ある。

さっちゃん

 ほかの子と遊びなさい。

 と言われても困るのだ。私にはサチエしか見えない。ほかの子、と言うのがいるのは知ってる。サチエが誰か私じゃない子と話しているようなことをするのは良くあることだし、サチエもほかの子がいるということを言ってる。ママだけじゃなく。ほかの子ってどんなだろう、それはよく私とサチエの間で話題になることだけど、サチエの話すほかの子というのは、どうやら私やサチエとは大分違うもののようだ。触るとやわらかくて、ひんやりしたり温かかったり、あと布団に入るときはおやすみなさいって言うんだって。えー、と私は言った。そんなのないよー、おかしいよ。あと、ほかの子たちには歯がある。歯って言うのは口の中にある白い硬いものらしい。それほどまでに、私やサチエと、ほかの子たちの間には大きな差がある。まあ、私とサチエだって結構違うけど。サチエはうがいした後の水を飲み込まないし。
 ほかの子の声は、たまに聞くことがある。なんでだろう、たいていは泣いている。
 サチエは、お父さんからもらった木のバットを振り回している。何を打とうとしているのだろう。野球のルールは、私は少しだけ知っている。ボールを投げて、打つ。遠くへ飛ぶとホームラン。
「ボール、投げるよー」
 とサチエに大声で叫んで腕をぐるんぐるんまわした。サチエはこっちを見ずに、バットを振りぬいていた。だから、何を打っているんだろう。