ウソ日記

ない。ある。

草原

 木が二つきりしか立っていない草原があって、そこに生えている草はガラスの様にするどく固い葉を持ってるイネ科の多年草だけだ。草原全体がまるで常に秋であるかのように、黄色く染まっている。その茂みには、野生の牛でさえ入るとただではすまない。まして人間は。だから誰も、秋に実をつけるという2本の木の赤い実を食べたものはいなかった。
 ここは元々草原ではなかった。森だった。そのあと切り開かれて畑に変わった。農村から人が去り、放置された畑にソードグラスが侵入した。ソードグラスは、一度草原を形成するとその他の植物や対応していない動物の侵入を極端に強く拒み、ほとんど極相化してしまう。過去人間の手が入っていたような土地は、今、ここと同じような草原だ。わずかに寿命を終えていない木が点在しているだけで。都市にすむ人々はそのことをよく知らない。彼らは都市だけで完結しているから。柿の木なんて、きっと憶えてない。