ウソ日記

ない。ある。

ここが日比野なら君は

 君は長い名前をもっていた。ライスペーパ−が巻かれるのと同じ時間、君と同じ場所にいた。いくつかの過激な食べ物に関して、君は辛辣な意見を持っていた。たとえばクニャン、たとえばモキソー。ニガウリとキュウリのスティックをニョクマムベースの甘いタレにつけて齧りながら君が喋ったことを、僕は忘れない。
 配管の選択を誤った。
「その赤、赤!!」
「初歩的な組み合わせの力学なんだよ、パクチーと小豆とガランツィオというのは・・・」
「逃げ、馬鹿!!」
 モスキトーズのようにはいかない。配管の中身を頂くことのみで生きている彼らは空気発火や湿潤を防ぐために消化管まで改造しているというけれど。
 日比野の空は赤い。
 西を向けば死者の山が見えるし、東を向けばチカチカな電離管のおふざけ都市が見える。ブルーレイの骨董品的ソーサーの上に置いたシンガポールコリンズを飲んでみる暇がなかった。