ブルーブリーズ
ブルーブリーズ、ブルーブリーズ、何かがささやくような気がする。僕は息を潜める。彼らは歩かない。飛ばずに漂ってくる。「何か聞こえたの?」「いいえ、別に。」「本当?」加寿子さんが笑って尋ねる。加寿子さんは多分彼らを知っている。ダケカンバの夜を抜けて、水の蒸気が山を越していく。
「お湯が沸いたけど。」
加寿子さんは僕の母の妹で、つまりは僕の叔母なのだけれど、先日ふらりと家にやってきた。結婚していたギリシャ人の夫と別れたらしい。何日か泊めてほしいと言った。母は微妙な顔をした。
コーヒーをいれてくれた。
「彼らは何なんですか?」
と僕は尋ねた。加寿子さんはおかしな顔をして僕を見た。
「あなたの子供たちよ。」
僕には彼女がどういう意図でそう言ったのかそのときは分からなかったが、そのあとそれがどういう意味かを知るのに時間はかからなかった。乾いた木の焚火ではぜる音がした。