ウソ日記

ない。ある。

オレンジグリーン

 古い地層の片隅に古い世界のお話が埋まっているというスタイルは、それなりの訴求力を持つものです。そのお話がウンコチンコ等どうしようもない単語の羅列だったとしても。まあ、マシですよね、何も無いよりは。

 インディアンツリーの鯖子さんは、24時間前に失踪した息子のチェイニー君のことをまだくよくよと考えつづけていました。

「副大統領?」
「ちがうってば」

 チェイニー君は50を過ぎているのですから、もう失踪してあたりまえなのです。でも鯖子さんにはそのことが理解できません。なぜなら鯖子さんは、西の方の土地からここに越してきたよそ者だったからです。彼女はここの土地に生きるということを、本当には理解してはいないのでした。
 鯖子さんが歯を磨いたとき、ポロっと何かが口の中からこぼれ出ました。金色の指輪でした。チェイニー君の伝言が記してありました。「僕は今、南の平原にいます」一瞬、鯖子さんの網膜にも、オレンジグリーンの、チェイニー君が見ていたまっ平らな大地が映りました。

「オレンジ色のカラスがいたよね」
「新聞に出てたな」
「それ読みながら、母さんの中学3年の5月4日の話を聞いたんだ」