ウソ日記

ない。ある。

横知川

 隣に新しい橋が出来ているのに、古い橋がまだ取り壊されない。一応、進入禁止の黄色いロープが張ってあるけれど。

 山路さんが教えてくれたのは、その橋は町の基礎とつながってバランスをとっており、壊すと町がひっくり返ってしまう、というものだった。町がひっくり返るというのがどういうことなのかいまいち私には理解できなかったが、市長を始め関係部署の人間、そして町の住民すべてがそれを信じているらしいことはここに住み始めてすぐに分った。

 横知川は全長37km、町の西方に位置する名高山地を源とする。河口には漁港が整備されていて、ボラやサカチなどが水揚げされている。多くは阪神圏に輸送され消費されている。河童等が住んでいるといわれていたけれど、1985年の関西学院大の調査によりそれは否定された。しかしその調査で分ったのは、それだけではなかった。この川にはプレプロビテリオのサイクルが存在しない。

 山路さんには河岸でタバコを吸っているときに、声をかけられた。タバコの吸い殻は、けして川には捨てないようにね、と。学校の制服のままで吸っていたのにそのことについては何も言われなかったのを不思議に思った。廃橋というのはしかし、タバコのつまみにはとてもいいものだ。