ウソ日記

ない。ある。

スクリーンペーパー・サマー

 すごい男の子、花子。そのとき聞いた子、今は大学の修士課程でおっぱいの研究をしている。それからカシューナッツの人。カシューナッツというのは甘くて酸っぱい、夏の味、過去がネギ背負って僕たちを捕まえに来る、夏の夜の匂い。オスとメスともうひとつ、チスのカブトムシ、羽を覆う甲がなくて畳まれた羽の向こうにぶよぶよとした胴体が透けて大変気持ちが悪い。チスのカブトなんて僕らはめったに見ることがないからなおさら。アルビノの蚕を掴んでしまってぎょっとしたことがあるだろ? それと同じだ。
 平行四辺形の桟、12枚ほどを一組にしてそこに満齢まで育った蚕を流し入れる。ぼてぼてと重力に沿って落ちつつも、どこかしらの格子に引っかかって落ち着く。床まで落ちてしまった運の悪いやつを拾い集めて再度上から流す。何匹かは踏んづけてしまう。仕方がない。緑の弾力のあるゼリーみたいなものが彼らの体の中には詰まっていて、これが糸になるんだろうと勝手に思っている。喘息持ちだった母は蚕室には入ってこない。母の血を半分は持っている僕ら兄弟も、当然大なり小なりのアレルギー気質を抱えているはずなのだが、春から秋のシーズンにはよく手伝わされた。あのときの蚕たちに仕返しをされている。
 仕返し。
 道には子供たちがガタガタ言って倒れているし、行く当てのない会社員の男性やら女性やら、会社が終わったら帰るところがない。UFOくらい見たい。公園の樹木はコンクリートであっても僕は気がつかないだろうし、それをどちらと判別しようとすることさえ億劫になった。セミたちが止まっているから? 止まってないじゃないか。葉っぱを一枚ちぎって食べてみた。何とか食べれた。苦いとも甘いとも言いづらい、懐かしい味だった。お父さんになりたかった。