ウソ日記

ない。ある。

鳥2

 グアーッて何か獣の声のような母親の声がしたと思ったら唐突に電話が切れた。電池切れらしい。分かったことが二つ。けっこう長い間、僕は家に帰っていないっぽい。あと、ここは携帯が繋がる。なぜ? 僕は辺りを見回す。家は一軒も見当たらない。基地局のアンテナなんて当然。僕はしゃがんで、草を引っこ抜いてみる。土の代わりに無数の笑い虫がうごめいていて、根っこに付いた笑い虫と地面の中の笑い虫がぎゃはぎゃはと笑う。ああ、だめだ。どうやらここは現実ですらないらしい。目をつぶってまた開いたら現実に戻ってないだろうか。無理だった。寝て起きたら夢だった理論を試したいが、まだ眠くないので試すのは後に回す。とりあえず笑い虫の笑い声がむかつくので、歩いてその場を去ることにする。一番最後の、現実だっただろう記憶はなんだろうかと思い返してみる。いつからこの場所にいたのか。走っていた、この場所を。いつから? 3日か4日前? それだけの夜を越えた記憶がある。食べ物も水も取らず? そう。その記憶を頼りにするならば、どうやらここでは飢えて死ぬことはなさそう。今も僕はおなかが減ってない。その前は?その前。学校、塾、家で怒られた、さえちゃん、国後先生、誕生日があった。僕の。僕の13歳の誕生日。ケーキを食べた。その誕生日の席で僕はおばあちゃんからプレゼントをもらった。欲しかったゲームのカード。さっきバッグの中から出てきたやつ。あのカードを持って、僕は大樹の家に遊びに行った。大樹とバトルする。僕は勝って、大樹はグアーって叫び声をあげながら悔しさのあまり大きな鳥になって僕を襲った。僕はバッグを振り回して応戦した。
 うんちょっとまって。そこからもう現実じゃないよね。なにそのファンタジック変化。悔しさのあまり鳥にって。しかし僕の頭の中には、確かにそれがおきたという記憶がある。そうして、その記憶がちょっとおかしいんじゃないかなっていう常識も。
 グアーって大きな鳴き声が聞こえる。見上げると、10メートルぐらいの大きな鳥が、空を飛んでくる。お母さんだ。
 いやいや、それおかしいだろって僕の常識が言う。お母さんだ、ってなぜ素直に認識しちゃったよ。お母さんが僕を迎えに来る。僕は逃げようとするがすぐに追いつかれ、太い足でつかまれて一緒に空に舞い上がる。グアー、グアー。怒っているようだ。