地震のあと

　歩いていくと、ビルが３階の途中から折れて、道の反対側のビルへ寄りかかっていました。そんなところをくぐりぬけたくないので、路地を曲がって別の通りに出ようと思います。路地に散乱しているガラスやなんかの破片を目玉のおばけがついばんでいます。ほら、魚のかぶと煮なんかあるじゃないですか。あれの目玉のようなのの大きいやつ、直径１０cmくらいでしょうか。それが５,６個一緒になったのがもぞもぞ動いています。よく見るとミミズの群体の様な形の、白い触腕で破片をかき集めているようです。正直ちょっと気色悪いです。人には危害を加えないようですけれども、駆除しても駆除しても沸いてくるので困っている、と近所の区役所勤めの方が言っていました。
　先日の名古屋大震災の結果、死者・行方不明者は現在３９００人、倒壊した家屋は１００、００棟以上、失われたマナは概算で３０００万ゲイン。これらの数字を並べたてただけでも被害の大きさが実感できると思います。というか、私も、それらの数字をラジオで聞くことによって、ようやく周りの風景を実感として受け取れるようになったというか。それまで恐ろしいほど現実感がなく、炊き出しのおにぎりを食べてもどこか遠足のような妙なテンションでした。実家の近くでは川に掛かった橋が落ち、水面を覆うように何千本もの手がその瓦礫に取り付いていました。川を渡るため臨時のゴムボートが使われ、それが通る際には手はすっとボートを避けるのですが、ボートが通り過ぎればまた開いたスペースを埋めるのでした。
　カラスが５、６羽の集団で、目玉のおばけと喧嘩しています。餌にしようとしている、という感じではありません。なんというか、縄張り争い。目玉のおばけも何匹かで協力してカラスに対抗しようとしていますが、やはり地を這うものと空を飛ぶもの、結局はカラスに追い散らされてしまいました。カラスはガラスのかけらを咥えては飛んでいきます。巣作りにでも使うのでしょう。