ウソ日記

ない。ある。

タカハシさん

 街が笑うように、わたしもまた語りたい。

 タカハシさんと、僕達は呼んでいた。何のことはない、両側に塔のある跳ね上げ橋である。その開閉機構は大昔は使われていたのだろうけど、僕らはタカハシさんが、その橋体を動かすところを見たことがなかった。タカハシさんの掛かっている川は幅が100mほどで、大潮の時は橋桁の根元のヘドロが見えた。堤防の道とタカハシさんの道の交差点の角に新聞屋がある。リョウ君の家だ。

 あるとき、ふとした病でリョウ君の弟が死んだ。僕らはリョウ君自身からはその話は聞かなかったけれど、口さがない大人達の会話から、それを知っていた。