ウソ日記

ない。ある。

チーズムーン

 紅茶を入れようとして、無重量だということに気付きました。無重量状態では茶葉がホッピングしませんし、それ以前に電気コンロにポットをかけてお湯沸かすこともできません。
「カナエさん、カナエさん、ちょっと操舵室まで来てくださいよ。」
 カドさんがドアから頭だけ出して、私を呼びました。
「どうしたんですか?」
 と、私は彼女について行きました。

 操舵室にいたのは月の子でした。迷子になって、うっかりガラスを破ってきてしまったようでした。その破られたガラスの個所からは真空がどんどん入って渦を巻き始めています。カドさんは真空嫌いではないんですが、私はどうも真空は苦手で、特にこんなふうに獰猛に吠えている所には近づきたくありません。だから私は、操舵室の中には入らずに様子を見ていました。カドさんは言いました。