大根
大根とはいっしょに旅をしてきたけれど、この三叉路でお別れだ。僕は右の道、大根は左の道を行く。
「熊には気をつけろよ。」
「こっちは会わないよ、多分。」
大根はおでんの大根で、僕は中田家の次男だ。塩尻の古い駅の跡で出会った。川沿いの道を歩いてここまできた。途中大型の車に轢かれそうになったり、熊に襲われたりしたけれど。右側の藪から突然出てきたのだ。僕の背丈くらいあるように見えた。二人で大声を出したり持ってたつえでアスファルトを叩いたりして何とか追い払った。そのあと少しの間、ぼうっとしていた。
「だって僕はおいしそうな匂いとかしないし。」
「おいしそうとか言うな。」
そうして、格好よさげな台詞を言い合うこともなく別れた。