ウソ日記

ない。ある。

カステラ

 カステラにクリームをかけて食べるのは邪道かしら。きっと邪道ねと畳子さんは思いました。ある薄暗い11月の曇りの日のことです。外の空気は11月なので当然もう秋も終わりの空気なのですが、畳子さんの部屋は夏の色のままです。海でみんなで撮った写真が、この部屋に付け加わった最後のものです。カーテンは朝から開けたままです。今日あたり雪が降るかなあと畳子さんはぼんやりと窓の外を見ました。携帯がなって、玄関のドアの外で声がしました。畳子さんの友人の神奈川さんが来たのでした。
 神奈川さんの母方の祖母はスペイン人で、魔女だという話は畳子さんも聞いていましたが、まさかそれが本当の話だとは思っていませんでした。神奈川さんがその話をするときは、畳子さんは大抵聞き流しておざなりな返事をするだけでした。神奈川さんはおしゃべりの内容の本当さよりも面白さに重点を置く人だということは畳子さんはよく知っていましたから。にしても魔女っていうのはさすがにどうかな、と畳子さんは思っていたのです。
「そうそう、スペインのおばあちゃんからなんか届いてね。」
「ふーん。」
「私24になったじゃない。そのお祝いだって。」
 そう言って神奈川さんが見せたのは、中くらいの瓶に入った黒っぽいペースト状のものでした。一見ジャムの様に見えるので、畳子さんはそう言いました。開けると、かすかに何かベリーのたぐいのような匂いがしました。
 雪が、チラチラと舞い始めました。