ウソ日記

ない。ある。

イカ使い

 伊八島は、NHKの「小さな旅」に出てきそうな海沿いの集落だ。国道が走っているのはもう少し内陸よりで、青い大きな道路看板「⇒伊八島」を入るとしばらくして着く。海水浴の季節はとうにすぎて、常緑の木々の緑もどこか色あせて見える。小さな堤防が湾の南から突き出している。ここが、イカ使いたちが今でも暮らす港だ。
 イカ使い漁は、古来よりこの地方に伝わる漁法で、古くには宇津保物語にも記されている。「凧」の古語はもともと「イカ」であり、それは彼らイカ使いが見事にイカを遣う様を模したものであるためそうつけられたともいわれる。昭和20年代までは盛んだったが、漁業の機械化と後継者不足により、現在ではこの集落で行われるのみとなっている。私はそのうちの一人、唐沢悠樹さんを訪ねた。

「こういう風に取材受けるのって、なんか照れますね。」
 彼はそういって笑った。まだ若い。今年22才になったばかりだという。
「15のときから、ときどき父と一緒に漁に出てました。ああ、もちろん、その前からイカには慣れてました。こういうところだし、父や叔父達がそういう仕事をしていれば、自分もそういう仕事をするんじゃないかなと子供ながら思ってました。高校は親に行かされたんですけれど、それ以上勉強する気もなかったですし。」
 しかし、聞くところによれば、彼と同年代のイカ使いはいないという。
「うーん、みんな出てっちゃいましたしね、まあ・・・」
 と言いかけて、彼は苦笑いをする。
「まあ、分からなくもない気分もありますけど。」