ウソ日記

ない。ある。

うのこたけのこ

 これだけでよかった。

 筍を採りに藪に入る。普通は春が旬だけれども、この道の向こう側の竹やぶだけは毎年秋に生えてくる。祖父が私に教えてくれたものはそれぐらいで、他は本当に困った人だった。浴びるように酒を飲んでは、だれかれかまわず毎日諍いを起こしていた。
 クーラー病の治療薬として、秋筍がいいとテレビに話題でなってから、あの竹やぶにも立ち入り禁止のテープを張らなくてはならなくなってしまった。それでも、たまに近所の人間のものではない車が止まっているのを見かける。まあ、ろくに管理をしてない竹やぶだ。大きくなったようなのしか見つかりはしないだろう。それにどのくらいの値が付くのかは知らない。あと、足場が腐り竹ばっかで最悪だし、下の沢に転がり落ちることがあるかもしれないけれども、私は知らない。
「筍を焼いて、七味ねえ。多分家のはそれだとえごくて食えないよ」
「あ、うちは出荷もしてたから」
 大学のときに知り合った友人Aとの、いちばん最初の会話は筍のことだったというのを覚えている。彼女は京都府の出身で、卒業後は家業を継ぎに地元へ帰った。今でも時々ネット上でやり取りをする。最近火の玉を見たらしい。ぼうっと青白く、竹と竹の合間を漂っていたそうだ。