ウソ日記

ない。ある。

マーガレット

 土星のわっかを歩き回れるほどの歩幅を、私は所持しない。遠く泡立つ太陽のかげろうを、あるいは中央の動乱として見る新聞社の、そのニヒリズムに与するほどの諦念も、私は所持しない。では私は何に属するか。高速起動の、あるいは死の欠片の、ほのかな柔らかさ。孤独と、そして斬撃の、静かな愛おしさ。加熱し加速し富を得るもの、加護し命に盾突く生き物、ぬるりと正体を無くした死が、しかし絶対の衝撃を持って、あなたに近づくのだ。
 鏡がある、とても重い。終戦の年、姉は14歳だった。姉はその、重い重い鏡を背負って、遠くの士夫のもとへ嫁いだ。姉はそこで七人の子を産み、32歳で死んだ。私は回復はしない。18年の歳月が、私を困難に、より困難によりかかる。あれは星の名、あるいは、立ち枯れた、ただの花の名、

 マーガレット。