ウソ日記

ない。ある。

水路

 そんな膂力がある作品でもない、でも好き。

 柔らかな水の匂い、芦原をかきわけたときの、葉や茎の擦れる音。水鳥がばたつき、淀みから小船が一隻漕ぎ出されてくる。
 洲の小さな砦跡。目の前は一応は本水路だったのだろうけど、もちろん監視するべき対象がわざわざそこを通るわけもなく、芦に隠れた無数の小路を抜けられればそれを視認する事は中央からの兵士に出来るはずも無い。現在は放棄され、時折漁師が寝泊まりに使っている。
「ロオライ、今日はどうだい?」
「ぜんぜん。雨が来るね。」
「風も来そうだな。」

 ロオライの兄が帰ってくる。中央での権力闘争に巻き込まれ、逐われたらしい。彼は高名な錬金術師であるマダイエに師事するために、家を飛び出していた。彼は学問の才に明るく、情熱と野心に溢れた少年だった。しかし、ロオライが8年ぶりに見た彼の目は黄色く濁り、口元には卑屈そうな笑いが張り付いていた。

 嵐がくる。ロオライと兄はいくつか言葉を交わす。
「そういえば兄さん、司祭さまの来月の天気予報……」
「おまえ、まだあのバカのたわごと聞いてんのか?」
 ロオライはびっくりする。

 中央の人間が来る。ロオライの兄が酷く怯えるので彼を洲の砦跡に隠す。ある日、ロオライは網の魚の入りに非常に恵まれた。うきうきしてロオライが、兄に魚をわけに砦跡に寄ると、彼は溺れて死んでいた。