ウソ日記

ない。ある。

逃げ待ちホリワ

 逃げていく相手にホーリーワードをかけましょう。行く先は険しい道、その困難を乗り越えさせてあげる。そして世界を、世界を一回りして、また私のところに帰ってくる。帰って来たあなたを迎える手、優しいその手であなたを掴んで、もう離さない。

 G=イール

 風の館の領主達は、その手紙に怯えることができる。かの沼の主は彼らの力、あのテレイアの力の及ばぬ外皮。その土地は魔力に満ち、植物の相を持つ蔭培の十重二十重に繁った、もとはドライアドの、大地喰いが奪った地。
「これはこれは! 愛されたものだね!」
 愛されたものだね! ともう一つの頭が追従する。蝿の王に睨まれて黙る。
「スクロールは無いねえ、ちょっとした爆弾だけさ。たとえあんたでも、こいつであれをどうにかしようってのは無理さ。」
 あばただらけの婆がヒヒ、と笑う。そっちの山羊さんでもね。忠実な騎士が進み出る。わたくしめがあの竜を退治して御覧にいれましょう。「竜じゃねえ」即座にツッこまれる。
「では、わたしは無になろう。何でも無いものに」
「あなたはテレイアの加護を捨てるのか?」
「そうだ」
 そう、蛾の装いに身を包んだ子爵が言う。

 結末だけを言うなら、蛾の男は結局賑やかしに終わった。彼にとって森林は生まれたままの恐怖だったし、蝿の王はやはり贄を欲したからだ。案山子も針ねずみも透明人間も蒸気人形も、場には居なかったし。