山の手エアライン
山の手といったらミズスマシのようなもの。キヨキヨ水面を走って、落ちつかないったら。
母さんはそういってくさすけど、私はたまに、学校が半日のときとか休みの人かそういう時、山の手行きのバスに乗る。ほうわりと坂を登って、丘陵のてっぺんへ。そこからはエスカレーター。山の手を支える柱たちの巨大さに、私はいつも圧倒される。
ツワブキの鉢植えを専門に扱っている荻原商店の辻を曲がると、お菓子屋さん街に出る。色とりどりのキャラメル。飴ちゃん。煎餅。そういった日持ちのする類のものだけではなくて、細工綿菓子、ジュレ、生クリームにカスタード、シャボン玉のフライ。いつも私はそこで、50円のハッカソーダを買う。食べる以外にも、紙にしみこませてちょっと乾かし、アスファルトの上に置いて石とかでそれを叩くと、パンと火が出て楽しい。学校に持ち込むのは禁止。危ないから。まあそれは当然。
さたこちゃんがいた。
お母さんと一緒に来ていた。
「山の手なんてお母さんと一緒に行くとこじゃないでしょ。」
次の日の学校で、さたこちゃんをそう言ってからかった。さたこちゃんは
「えー、こっそり見てたんだ。ひどいー。」
とぷんすかした。