ウソ日記

ない。ある。

コスモロジカルコンスタント

 カイワレダイコンの花が咲く季節、それは重力の衰える季節。宇宙がちょっと大きくなっちゃうから、ケーブルの張力計算をやり直さなきゃならない。

 伊藤さんという人がアカツキさんの会社では働いてて、その人はとても手が早い。例えば茄子の箱詰め、僕だと20秒とか余裕でかかっちゃうような作業を5秒とか、のっているなと思われるようなときは3秒とか、そんなすごいスピードでこなしていってしまう。首元から生えた2本の腕足を器用に使って。
「ああ、これね。昔、海軍にいたときにつけてもらったの。本当は除隊する時にとってもらわなくちゃいけないんだけど、私は正式な手続きを踏んで軍を抜けたわけじゃないから……。」
 前に尋ねたとき、伊藤さんはそう言った。そして、ああ、宇宙のことを海にたとえるのは、私たちの星もあなたたちと同じみたいね、と笑った。僕たちもそういえば、荷物が宇宙でなくなっちゃったりすることを、溺れたとか沈んだとか、そういうふうに言う。

 伊藤さんの星の、伊藤さんが生まれたところの名前は、ニホンというのだそうだ。その名前を聞いたとき、僕はなんだか、とても懐かしいような、ちょっと変なような気がした。家に帰って、そういえばニホンってコクッテがあったなあと、思い出した。思い出した瞬間、身体をくたくたにして笑ってしまった。