ウソ日記

ない。ある。

ボストン

「ポール、そんなとこに立ってると風邪を引くわよ。」
「うん・・・、鳥を、待ってるんだ。」
「・・・鳥はもう、去ってしまったわ。もう。・・・20年も、前のことよ。」

 ボストンにあるケルト人居留区には、コロンブスアメリカ大陸到達以前に北方経由でこの地に入植していたケルト人の子孫たちが暮らしている。彼らはいまだステイツに帰属していない。いくつかの集落がけして豊かとはいえない安山岩質の大地に点在している。先の紛争はイギリスの介入を招き、ステイツの不安定化に著しい寄与を果たしたが、さて、それではわれわれの生活はと言うと取り立てて大きな変化もなく、彼らの生活にも大きな変化があるようには思えない。まあ、彼らの目つきが、ますます負け犬の目になっているとは感じられるが。

「来た。」
 故郷を追われたオオカミたちがやってきた。住処を失った音響技師がやってきた。鳥はもう羽ばたかない。だけれども、彼らは戦うことを諦めたわけではなかった。

 あの、指輪を手に入れるために。