春がきた

　不謹慎なことだと思いながら足の指でリモコンをまさぐる。地震のニュースは楽しい。白いシャツ、白いシーツ、彼の趣味だ。それらにくるまってじっと、いや、というほどは集中してはいないが、テレビを、眇つつ見ている。テレビの番組は好きだけどテレビの画面自体はちょっと眩しい。コーヒーの出枯らしの匂いがする。バナナの腐りゆく匂いがする。どこかから砂虫の鳴く声がして、ああ、春だなと思う。砂虫は退治しておかないといけない。増え過ぎるとシーツやシャツに染みを作ってしまうし、最終的には家を突き崩してしまう。そうなったら彼に悪い。砂虫の声は好きなのだけれど。
　空気が緩くなって、このまま死んじゃいそうだ。またそんなことを言う、と溜め息をつかれた。