ウソ日記

ない。ある。

ヤナギラン

「北壁の崩落の跡には、ヤナギランが蔓延っている。前千年紀に栄えた電波文明の眼であり口であるところのコー、長耳の言葉では鍋を意味するのだがおそらくあの形状からそう呼ばれるようになったのだろう、今はその、明るい桃色の花序がいわゆる「お花畑」を形成しているその下だ。崩落の以前からもちろん機能は失ってはいたが、ようやく完全に眠りにつけた、というところだろう。さて、本日は思いもよらない客人の訪問を受けた。色祭儀のカナダモが……」

 
 祖父の手記にはヤナギランとあるが、実際にはすでにキンロバイに優位種を取って代わられていた。黄色の質素な花の間から、構造材らしいものが見えた。
「同定取るよ、ちがう年代!」
「ノプちがって?」
「電波時代人ノプないでしょ!」
「あー、そっか。」
 連続体を辿って切断面を探る。電波時代人のテクノロジーは基本的に切断に依っている。そのことが彼等への一般的な、殆どタブーとも言える対し方のおそらくは根拠になっているのだろうし、僕自身、軽い嫌悪を感じがちだ。