ウソ日記

ない。ある。

神鍔

 彼をフォローしてやった方がいいんですか?

 そうしてやってくださいと言われて私は習志野の地へと降り立った。無数の神風が切りきり糸音を立てながら人肌を裂こうとしている。神風の目が蟲のように囃すのを聞いた。
「君らは何故人を殺めようとするんだい?」

 葬列が稜線を行く。方々に散らばった親族達とこの村の乞食連中たちが、木の棒で金の物を叩きつつ行く。先頭の男が掲げる吹流しが突然の風で千切れ空に舞って行ってしまう。同時に、数人の男の首から上も、幾層かに撫で斬られて、空に舞って行ってしまう。神風の仕業だ。僅かに残った下あごが、だらんだらんと揺れる。

 心療内科の先生の話では、薬は一時間おきに飲むよりも一時間半おきに飲むのがいいのだという。先生はその頭の口で、実際にやって見せてくれた。ちゃんとカラスを2羽丸ごと食べれていた。僕も頑張りたい。
「オキツさん、」
「はーい?」
「点滴の時間ですよ。」
 看護婦さんたちの手は冷たい。でも多分、僕の手はもっと冷たい。

 一纏めに纏めれば神風などはどうにでもなるし、それは常ならば私がフォローするまでもないことだ。しかし、今の彼ではもしかしたら無理かもしれない。無理だったら彼は死ぬのだが、私がフォローするのであれば死なない。どちらでもいいことかもしれない。彼はどうしたいのかは知らない。彼が話さないからだ。まるでどうしようもない子供のようだ。