ウソ日記

ない。ある。

昨日機

 コノリさんは淋しくって淋しくって仕方がなかったのでした。だからコノリさんはあんなものを作ってしまったのでした。明日と昨日は取替えが利くのです。さて、愛したり愛されたりすることから少しの間はなれていたコノリさんでしたが、そのほんの少しの間に全然耳が利かなくなっているのを知って愕然としました。何をみんなが喋っているのか分からないのです。言語が失われてしまうのは本当に速いものなのです。コノリさんは宇宙に行っていたのでした。3ヶ月の間、一人の人間を生かすだけの空間と、かすかな弁結電波を捕らえるとても重い機器を積んだ、対放射線用の紫の塗料が塗られた船でです。
 月の町にはコノリさんの昔の恋人が住んでいます。エウロパの氷の下の海では、コノリさんの昔暮らしていたコミューンが、今でもエウロパクラゲの背に乗って漂っています。母親だったり父親だったりした人の声がどうだったかというのを、コノリさんは今でも再現して見せることが出来ます。コノリさんの昔の、いえ明日の恋人は、白い顔と赤い2つの丸の化粧のとても粋な人です。
「コノリさん、コノリさん、起きが出ますよ。寝起きして髪が無いですよ。」
「ウタメさんだ。」
「だ、なんていうんですか? 心疑ういますよ?」
「うれしかったのです。つい、ごめんなさい。」
 その人は朝のコーヒーとポタージュを作ってくれました。コノリさんはその、見覚えがある、というよりは選択して記憶に残していた、その場面が目の前にあるのを見て、嬉しくなりました。