ウソ日記

ない。ある。

サンバルカンだった

 青州の麹漬けがやはり一番だ。大きな瓶で買って、野菜室に保管しておく。

 先日、寫族の武装蜂起が起きた。チャンタオに集まったシステマーたちが一斉にドッテドアニマルを放して、街は大混乱に陥った。信号の伝染が交通の核を阻害し、商業地区では取引所の開く時間が2時間ほど遅れて1兆4500億元の損害を投資家達に与えた。鼠光という呼称で知られるモニターの明滅攻撃で、43人が死に至った。この惨事を引き起こした53人のシステマー、その中には子供や老婆もいたらしい、は当局のガス弾によって鎮圧されたという。役人の発想は貧困な上に、宗教というものに対して全くの無知だから、見せしめにアンテナに吊るしてカラスの餌にするなどということをやりかねない。
「そういえば昨日はラジオが乱れてたね。」
 カラーを直してやる。

「析出が終わってないだろ。どうして出てきたんだ。」
「痒くてさ。」
「・・・分かってるんだろうな? 皮膚が持たないぞ?」
「それより早く行かなきゃならないんじゃなかった?」
「・・・目立つわ。着れ。」
 ツィスウの腐れた皮膚はところどころ破れかかっていて、出血熱かなんかの末期のようだ。オーバーをとりあえず羽織らせてアパートの階段を下りる。確かにツィスウの言う通り、時間は無かった。エレキ自転車で65kmを叩いて、85cmの生活路地を石とレンガに幾つものブレーキ痕やハンドルゴムの跡を付けて駆け抜けていく。
「ああ、液搭の匂いだね。」
「オレンジだ?」
「違う。黄色だ。5.8YR 3/16。」
「それだ。」
 ツィスウはカレーが好きだ。時藤もそうだった。俺はあまり好きではなかった。時藤はよく、俺の青州漬けを勝手に食べていた。別に俺は何も言わなかった。

 東京に戻ることは諦めた。