ウソ日記

ない。ある。

シアター

 久しぶりに、自分が人にきちんと接することができない人間である、という恐怖を思い出しました。ある雨の日のことです。五人しか客席にいない劇場の、カーテンコールのような雨の降る日です。
 その五人というのは、ショーンさんとミウラさんとリリーさんと猫のポチとアキシマさんのことです。正確には四人と一匹ですね。ショーンさんはこの町にたったひとつだけある、熱帯魚を扱っているお店の主人です。アジア系のものに強く、珍しいコイ科の原種を求めてときどき遠くからも人が訪ねてきます。ショーンさんのお家には大きな出窓があります。其処に飾られているガラス器は、海を隔てたところにある、遠い遠い島国のものです。赤い魚が住んでいます。
 ミウラさんとアキシマさんはその島国からやってきました。ミウラさんはコンピューターを商っています。アキシマさんは赤い音楽の演奏家で、一年のうち十ヶ月はこの町にいません。アキシマさんはミウラさんのことが嫌いでしたし、ミウラさんの方でもアキシマさんをあまり好いてはいません。ミウラさんの車は白のピックアップで、週末には荷台に大量の荷物を積んでキャンプに出かけます。
 リリーさんとポチの話はまた今度にしましょう。だって、彼女と彼の話はちょっと悲しいお話になりますから。ポチが片目な理由も、話さなくてはならなくなるでしょうし。