ウソ日記

ない。ある。

おはなし

「おはなし、聞かせて。」

 ぽつりと呟いた。雨とクリームソーダの似ている具合がそんな気分にさせた。大介は窓の外のトタン屋根の上で踊っている。いや、踊っているというか、とにかく、身体をいろいろに動かしている。エビハサボテンの大介は、とにかくいろいろに身体を動かしている。
「どうしたって、ダメだよ。」
 彼は、大きな家に住んでいた。大きな家というと少し違うかもしれない。私の発する言葉はいつもそうだ。いつも、そのものとちゃんとあわない。ちゃんとしなさいと母に言われた。祖母にも言われた。祖父に言われたことはない。もちろん父にも。彼の住んでいた家は三鷹にあった。三鷹には大塩平八郎の墓碑がある。別に何のゆかりもないはずだけれど、三鷹の康永寺には、なぜか苔生したそれがある。彼の家は斜面にしがみつくような格好をしていた。単純に階数に直すと4階建てということになるのだけど、背が高い建物という印象は皆無だ。

 お話などないのだから、私には描写するしかない。彼はお話を持っている。

「あなたには話せないよ。」
「どうして。」
「あなたは、私のお話を食べてしまうだけだから。」
「私は、・・・そんなふうではない。」
「私はあなたにはそんなふうに食べられたくないんだ。」

 彼は立ち上がって、自分の分のクリームソーダの代金を机に置いて、出て行った。私は座っていた。大介はまだ踊っている。大介のあの動きを、私はこれから踊っていると描写することにする。