ウソ日記

ない。ある。

「そうなんだ。僕は金属が好きなんだ。」
 と、彼は言った。四月のある晴れた日の午後のことだった。長引いたシベリア寒気団の逗留で開花予想が遅れに遅れた桜が、ここ2、3日の気温の急上昇で一斉に花開いた。
 私は彼の前に座って話を聞いている。ブルーシートはすでに花の下の地面を覆い尽くしていた。場所取りのOLが、おそらく携帯と思われるものを背中を丸めて操っている。ここからはその物体自体は見えないものの、まさかゲームボーイだったりはしないだろう。屋台はすでに店を開いているが、平日の昼間のこの時間帯では客はまだいない。まあ、これからだんだん増えていくのだろう。お年寄りの集団が街灯の近くでカラオケ機を響かせているのが、ああ、こういう場所なのだなあ、と安心させられる。場違いであるのは私たちだ。私達が座っているシートは青くない。白と黄と赤のストライプだ。学生服の彼と、ゴジラの着ぐるみの私はおそらく場違いだ。

 誰だ。今「ああ、川原泉?」とか言ったのは。