ウソ日記

ない。ある。

ヒマラヤムカシイモリ

 ヒマラヤ山脈カラコルム山脈を隔てている一本の回廊がある。現地の言葉で「明るい未来」をあらわすナゴという名前がそこを流れる川についている。そのナゴ川に棲んでいるのが世界最古の両生類、「ヒマラヤムカシイモリ」である。ムカシイモリの仲間は日本にも生息し、ニホンムカシイモリは本州全域、アカズキは紀伊半島、中国地方の清流で見られるが、近年の環境の悪化により減少の一途をたどっている。
 ムカシイモリの仲間は「イモリ」と名前がついているが、実はイモリとはまったく別の種類の生物で迷歯目に属する。歯のエナメル質が迷路状に入り組んでいて、ここから目名がきている。指の数が多いなど原始的な特徴を持ち、その中でも最も原始的な種であると考えられるのがヒマラヤムカシイモリなのだ。その生態は謎に包まれているが、ウィトキンス-カーリマン(1987)の記載によれば全長1.1m、前肢、後肢共に指の数は8本で鰭からの分化は未熟であり、その一生を水の中で過ごす。卵生で一度に200〜300個の卵を産み、オスが卵を守るという。
 骨格的な特徴はグリーンランドなどのデボン紀層から発掘された両生類の先祖的な動物の化石と似ており、生きた化石と評される。栄養分に乏しい高地の水系の環境が他の競合する生物の進入を妨げ、彼らの生存を許したのだろうか。しかしヒマラヤの造山運動は比較的最近のものであるため、彼らが数億年もの間そのままの姿で生き残ってきたことの説明としては心もとない。現在、彼らの生息域はナゴ川水系、ハ川水系のみと非常に狭く、その生存は非常な不安定さに支えられている。
 現地では、婚姻の際にその干物が供されていたという。非常にマズいそうだ。