ウソ日記

ない。ある。

電話

 平日の昼間に、しかも宅電のほうにかかってくる電話なんてろくなもんじゃないと思った。どうせセールスかなんかだろうし、まかり間違ってなんか意味のある電話だとしても、留守録かけてあるからいいやと思った。正直眠いのを押してまで出ることもないと思い、タオルケットをかぶってもう一度眠りの中へ戻ろうとした。呼び出し音が10回鳴って、留守録モードに切り替わった。耳障りな機械の声が、永峰は留守だと告げる。自分で吹き込んだ声だが、苛立たしさを感じる。
「あ、・・・もしもし、俺です、ああ、土谷です。先日はすいませんでした。・・・あの明日、またちゃんと直接説明します。」
 電話が切れた。唐突な謝罪に、俺は起き上がった。一瞬混乱した。
 落ち着いて考えて、間違い電話であろうという結論に達した。とりあえず、ここ最近、土谷という苗字の奴に謝られるようなことをされた覚えは無い。いや、土谷という苗字の知り合い入るが、そいつは学生時代のサークルの後輩だし、そもそも大学を出てから接点は無い。第一奴なら、携帯の方にかけてくるだろう。
 そこまで考えて、また不安になった。電話の声の調子は土谷のしゃべりとは違ったと思ったが、本当にそうだったか。眠気モードの時の自分の判断力に信用を置くのは無理だ。土谷が俺にあんな電話をかける理由が見当たらなかったが、確認のため奴に電話を入れてみることにした。
「あ、もしもし」
「はい、あ、お久しぶりです、永峰さん。」
「ああ、お久し。土谷さあ、さっき俺に電話入れた?」
「?いいえ、入れてませんけど?」
「あ、そう。ん、悪い。」
「どうしたんですか?」
「いや、なんか留守電に「土谷」って奴から電話入っててな。」
「僕は入れてないですよ?」 
「ああ、悪い。そういえばどうよ?今年の展示。お前出すの?」
「や、僕も4年ですし、」
「そうか、出しゃいいじゃん写真。」
「まあ、後輩にいいの居ますしね。」
「ふーん。」
「ま、永峰さんもまた顔出してくださいよ。」
「ああ、ま、どうかなあ。」
「あ、そうか、そういえば、横浜の方に行くことになったんですよね?」
「ん、ああ、そう。タケ言ってた?」
「時田さんから。」
 そのあと二言三言、適当な言葉を交わしてから、俺は携帯を切った。7月の名古屋の昼はうだる。シャワーを浴びて、頭を洗おうと思った。