ウソ日記

ない。ある。

火星野菜とロリポップ(2)

「おはなし、聞かせて。」

 プラスチックネギの話。
「僕の生まれた日はちょうど、季節嵐のときで、ああ、火星では夏と冬、冬と夏の変わり目に大嵐が起きるんだけど、そういう天気のときは停電がよくおきるんだ。母さんの畑も電気が通じなくなって、父さんと擬父さんは気が気じゃなかったそうだよ。擬父さんの友達がどっかからシクロモーターを持ってきて、やっとなんとかなったって話だけど。僕の右細腕が欠けてるのはそのせいなんだ。」
「え、それ欠けてたんだ。じゃあそこには本当は何かがついてたの?」
「うん、こっちに付いてるのがさ、もう一つ。」
「ふーん。」
パーセルミガールは木星人だから、左右対称に関する感性はない。プラスチックネギはいつも、パーセルミガールがどうして右側に倒れないのか不思議に思う。

「おはなし、聞かせて。」

 パーセルミガールの話。
「野球ってスポーツが、木星にはあるの。大きな広場で、投げた球を円柱で打って戦うスポーツ。空が3回回るくらいの時間かけてするんだけど、そのスポーツに、ロココビーナスって言う選手がいたの。ロココビーナスは偉大な選手、打率は0.382、ホームランは913本、ジェット235回。私は昔から野球選手になりたくて、でもまあ見てのとおりなれなかった訳だけど、そんなせいもあって私は彼の試合を良く見たの。私がなりたかった野球選手の姿に、彼はあまりにそっくりだった。」
「ふうん」
 熱く語るパーセルミガール。専門用語がちりばめられた野球の話は、しかしどこか物悲しい。一体どんなのなんだろう、野球って、とプラスチックネギは想像する。そんなに哀しい物なのかな。でも、素敵なんだろうな。

「おはなし、聞かせて」
 オールト彗星帯のエチゼンクローラー。HとH+、フィラメントのたなびく宇宙を何万年もみつづける。それに厭きない。替わりに言葉を失う。