ウソ日記

ない。ある。

ザツクサシバリ

「雑草という草はない」
 上記の言い回しは様々な熱血先生的史観の文章に引用されるが、これは必ずしも真ではない。すなわち『雑草』という植物は存在する。『雑草』と書いて、ザツクサと読む。学名コメリナ・クオニムス、1927年にアメリカの植物学者オーリア&フォンによって記載された。ツユクサ科の一年草で草体の構造はツユクサに似る。花弁は鈍い灰色。紀伊半島の沿岸部にその分布域を持つ。標準標本の採取地は三重県尾鷲市炊葉の休耕地である。徳田・松永(1997)によれば紫外線域での観察においてザツクサの灰色の花弁は複雑なドットパターンを持つ。これは昆虫を誘引するには必ずしも有効な適応でない。
 定期的な冠水を好むようで、雨樋の排水口付近に密生している光景をよく見かける。ザツクサシバリという遊びが僕たちの小学校で流行った。2対2の団体戦で、相手の足首にザツクサを縛り付けるのである。なぜそれがザツクサでなければならなかったかは覚えていない。レスリング要素を含む激しい遊びで、しばしば学校では禁止された。しかしそれらを尻目に、僕らはザツクサシバリに熱中した。
 ザツクサ四天王とよばれた存在があった。1組のカジオ、メイナ。2組のサンサ。そして3組のノノ&リョウ。カジオは体が大きく、メイナは腕の関節が人より一個多かった。サンサは葬儀屋の息子で変わり者の烙印を張られており、ノノとリョウは双子だった。ザツクサシバリは基本的にチーム固定ではなく、フリータッグが身上だった。しかしノノとリョウは彼女らの双子という特異性によってクローズドなチームであることを黙認されていた。ちなみに僕の名前はリョウであり、上記の記述にはちょっぴりの自慢と多大な悔恨がたっぷりの気恥ずかしさによって希釈された溶液のような、そういうめんどくさい内容物が含まれる。……なんてこと書かずに、3人称のままつづけりゃよかったな。しまった。まあいい。僕とノノが、いかにしてザツクサシバリの四天王の地位にまで上ったか、次回以降ではそれを記すことにする。