ウソ日記

ない。ある。

ハーブコート

 階段の下にはコロラド州で汲んできた新鮮な水が埋まっていて、1億年前の白亜紀の季節そのままに私たちの心を潤してくれる。ベランダのプランターにはコーシュンで取ってきた若々しいトビグモが棲んでいて、ワイルドベリーをついばみに来る小鳥たちを追い払ってくれる。暖かさの中で、僕らは、天然の英知を手の甲に乗せ、何度も何度も観照し感嘆する。十全たる水道の響き、重金属の甘やかなため息。
 大変だったのは、もう一回君を騙すことだったのさ、と水谷は言った。ありがたいことにそれは上手く行って、結局君はここにいる。
「もう一回?」
「あれ? 気付いてなかったのか?」
「あの結婚式のもか?」
 華やかな披露宴だった。セレモニーでは極楽鳥が飛び交い、色とりどりのあめ玉が撒き散らされた。シャンパングラスが火を噴き、余興のカードを裁くマジシャンの手から紅白饅頭がこぼれた。僕は新郎の友人としてその席にいた。水谷もである。