ネイティヴの月
「OKOK、話をしようじゃないか。とりあえずそのカエルを下ろしてみるのもいいんじゃないかい?」
テレビをつけると、そんな会話が聞こえてきた。一瞬遅れて画像が映る。ひとりの、アメリカ人らしき白人男性が、カエルを突きつけられていた。突きつけていたのはこれまたネイティヴらしき中年の女性。羽飾りこそつけてはいないけど。
その女性が口を開く。
「今まであんたたちがしてきたことを、胸に手を当ててよく考えてみな。……なぜ月へ行った。」
「そりゃホワイと言われてもケネディが……。」
「だまらっしゃい。」
カエルがいきなり破裂した、ように見えた。テレビの中の白人の男もそう感じたらしい。反射的に手を顔の前に上げて防御姿勢をとった。でも、カエルは破裂してはいなかった。
「次はこうはいかないよ。」
月に行ったことで、白人たちは彼らの死後までも蹂躙したのだとはよく言われる話だ。キンズリー大学の大学院生アントワン等の2005年の調査によると、1969年、アポロ11号の着陸船が月に降り立ったその日から、ネイティヴたちの死亡率は激減したという。彼らは死ぬことすらできなくなってしまったのだ。
テレビの中の二人は、その後30分間もの間にらみ合いを続けていた。さすがに僕はそれには付き合っていられず、食事の後片付けをして歯を磨いた。シャワーを浴びて戻ってみると、白人男性は死んでいた。