三井の豚
おいしい豚の作り方。
「甘い方がいいんでしょ? クロカンブッシュに使うなら」
油脂に溶け体内で分解されない類の甘味料を豚の餌の穀物に作らせ、食べさせる。
皇族が管理する農園で、そのような研究はひっそりと行われていた。
サンドイッチに使う辛子マヨネーズの最適な配合も、ここで示され広まった。全国のコンビニチェーンでは唯一ローソンだけ、それに従っていない。後のものは添加物の細かい量、種類の違いはあれ、基本的な味のバランスというものは同じなのだ。
そのような全体主義的陰謀論をさかしげに、しかもなぜか朗らかに、語って見せるのが三井だった。手が2本とも無かったが、特に困るようなそぶりは見せなかった。三井は何も持ち歩かなかったし、何も受け取らなかった。袖だけをひらひらさせて、街を歩いていた。
「豚をそのようにね、冒涜だよこれは。ね?」
「豚をそのように使いますか?」
「使うよ、彼らなら。」
そうなのだろうか。
三井の持っている車は赤のマーチだ。2本の足だけで軽やかに運転する。
「そういう豚じゃないけどね、今度豚をご馳走してあげるよ。」
と三井が言った。まじりっけなしの、本物の豚だ、と。ローストで?と聞くと、困ったように、いや、グリルで。と答えた。どう違うのか僕には分からなかったが。