ウソ日記

ない。ある。

猫を放つ

「おっそろしいことですよ、サエキさん」
「何が?」
「ついに明るい朝ですよ」「何だって!」
 朝は嫌だ朝は、と譫言のように呟いていた。

 私の直接の上司である佐伯氏は、猫が好きなことで有名だった。ほのかに猫のニオイがした。彼は交通事故死した猫を弔うNPOにボランティアとして参加しているらしかった。胴体を破裂させて死んでいる猫たちを連絡を受け回収し、埋葬するという。そういうのは保健所とかがやるんだと思ってました、と言うと、保健所なんかに任せられるものか、と、普段は聞かない声色で言われた。
「猫の埋葬ってどうするんです? 火葬にしてお寺かどこかに?」
「いや……、」
 と言って彼は言葉を濁した。後で知ったことだが、猫の正式な埋葬の方法というのは鳥葬なのだという。それなら別に、道路にそのまま放置しておけばそれでいいんじゃないかという感想を持ったが、そう思われるのが嫌であのとき彼はそう言わなかったのだろうか。まあ、彼等なりの思い入れがそこにはあるんだろう。烏はダメで鳶ならOKとかそういう。今適当に考えてみた。

「雨だ、言いたくないことですけど」
「こないな」
「そうっすね、サエキさん?」
ズボンにまで雨が雨が雨だ、長靴が意味がない。