ウソ日記

ない。ある。

サカナ

「スパニッシュ・タウンのサカナの骨たちに、サカナの泳ぎ方を教えるのだ。」

 テロリズムの言葉というのは、得てして耳に快い。階層を繋ぐ業務用の螺旋階段を下りながらそう考えた。オウム貝シュモクザメの落とすセピア色の影が手すりにちらつき、そういえば今年の推薦図書はなんだったかとウォレンに聞こうとした。
「「へースティング・モスの揺籃者」ですよ。戦争を扱ったごくごく普通のお涙頂戴ものです。」
「ああ、そうだっけな。ま、市の考えることはよく分からん。」

 共に並べば、ウォレンのほうが私より頭半分ほども背が低い。確かに私も普通の人間としては背が高い方だが、それでもウォレンの背の低さというのはサカナの成人としては異常とすら言える。「まだ実は成人ではないんですよ、本当は四月に生まれるはずだったんですが11月にずれ込んでしまって。親も申請書き換えるのが面倒だったようでそのままにしちゃってて。」と、先日書類仕事の合間に話してくれたが、まあそういう形式の上での成人とはまた別の意味で、生物としての成人かどうかといえばこれは間違いなく彼は成人なのだ。すでに子供が三人いる。背中に一人、左の二の腕に二人。そろそろ相手を見つけないとな、とからかったら、ちょっと首をかしげて、「サカナの、ですか?」と聞き返してきた。