ウソ日記

ない。ある。

オレンジ・ペーパー部

 いくつかのそれぞれ分離した溶液と沈殿、煮凝りのような弾性と粘性を持った汚泥。金属の光沢を持つ粒子が引き上げた足にまとわってくる。
「やっぱり、底につかないよねえ。」
「あんまり足いれんな。身体にいいもんじゃ無いきっと。」
 たしなめられる。
 2m*1mほどの長方形のブロックの上に、僕たちはいる。液面からは50cmほど。本体はおそらく白の陶製およびそれに準じた材質のタイルの表面処理だと思われるのだけれど、僕たちがそこからの移動を制限されている今現在、オレンジの・・・、そう、ちょうど歯垢のような付着物がその上を覆っている。ちょっとぬるぬるする。この、色つきの霧が付着したのだろうか。シャツの袖で鼻を覆い、息をなるべく浅くしている。
 遠くで、液体が高所から落下している音がする。
 僕らが乗っているようなブロックがだいたい十数mほどの間隔で点在しているようだ。ただ、この嫌気が差す液体を泳いで渡ってみる気はしない。それに、隣のブロックに渡ってみたところで事態が好転するとも思えない。食料はまだリュックの中にたくさんある。
「じゃあ彼らはどうやって沈まず歩いてたんだろ?」
「知らん。」
 ボロースミス達が僕らをここへ置き去りにしていったのかもしれない。その辺の詳しい経緯については実は僕も芳裕も定かな記憶を持っていない。彼らが5、6人の列を作って海を渡っていくのが、霧の合間から透かして見えた。