ウソ日記

ない。ある。

午後の日々

 当たり前だけど戦国武将とか斎だとかが本当にいるわけじゃない。樹脂と炭素繊維の複合材を焼いて作ったストラップにそういう名前をつけてるんだ。本のストラップというのも最近あまり流行らないらしい。本にはスリップとガーターをつけてソートる助けにするらしい。
 最近歩道橋が気になる。
 歩道橋の下には檻があって、いったい何を閉じ込めようというのかと不思議に思っていたんだけれど、あれは閉じ込めるためのものじゃなくて外からの進入を排除しようとしているんだと気付いた。歩道橋の下で雨宿りをする類の人間は市当局の敵らしい。別に雨宿りぐらいさせればいいのにと思う。どうせ使っていないのだし、空間がもったいない。そう、空間がもったいない。濁った黄色の粘つく雨をもたらしたのはお前たちなんだ。ストラップに当たると膜が剥がれてしまうから、鞄の中にちゃんとしまいこんでいる。フードもメガネもちゃんと着けているんだけど、目がしみる。

 フリッキーのデスクにあがる。彼のデスクは全体的にはこざっぱりしていて、でも部屋の隅にうっかり本が乱雑な小山を作っているのが好感度が高い。加速度方向に垂するようにして、幾本かのバーがかかっている。調理用のものらしい。羊や鶏とかを捌くのに使うのだとか。ぶら下げておいて血を出すんだって。年に何回かご馳走になる。今日もその日だ。ウサギと玉葱のシチュー、羊の内臓ソーセージ。各種ロースト。どうかすると物事をすぐ忘れそうになってしまうこの世界で、ちゃんと感覚の記憶のすべてを確保できる大切な時間だ。

「ごちそうさま。」
 と僕が言った。
「・・・f=v/cに比例する拘束条件の臨界であるからH(φ)を分離して定常状態における擬ハミルトニアンを・・・」
 彼はまだ呟いている。スキーフに外からの光が透けて、午後の雨があがったことを知らせる。