ウソ日記

ない。ある。

草原オオカミ

 アンモナイトの殻の隙間から草が生えているような、そういう草原・・・、まあ、草原があります。そこにオオカミが一匹います。そう、オオカミです。脊椎動物哺乳綱肉食目犬科の、オオカミです。アンモナイトの草原で、オオカミがこちらをじっと見ています。あ、ついと頭をあちらの方に向け、行ってしまいました。
 アンモナイトの草原でオオカミは暮らしています。
 稀マンガン鉱の鉱床がこの近くで見つかりました。それ自体は、稀マンガン鉱自体はそれほど高い利益を生む類いのものではありません。しかしそれに付随して、高い確率で、希少金属であるプラセオジムを含む熱水鉱床が存在するのです。最近の極低温系技術の発展のきっかけとなった金属プラセオジムの特異な磁気構造については多くの科学雑誌や啓蒙書、またはニュース番組などでも触れられ、知られているところでしょう。そして、その、相場価格の高騰および原鉱の確保におけるパワーゲームの様相も。
 ろくに処理を施していない鉄骨を無造作に組んだ安価な櫓は、30年の歳月を経て錆による劣化に敗北し大地に横たわっています。内戦の当時のものです。それが終結しこの陣地が放棄されてからいままで、人間がアンモナイトの草原に入ることはほとんどありませんでした。いままた、今度はかつてとは比べ物にならないほど大規模な人間の手が、ここを侵食することになるのでしょう。
 どうやら、あちらの丘の南向きの斜面にオオカミの巣があるようです。アンモナイトの殻と殻の間に、ここのオオカミたちは巣を設けます。