ウソ日記

ない。ある。

ラゼルム

 河口の湿地帯では桟橋のための杭を固定するのが難しい。年々沈んでいくのを上に継ぎ足していく。川が運んできて沈降させた大量のシルト、水の中で腐らずに折れ重なっていく茅。ウエーデの平底舟が来た。
「また取れたな、今日は。」
「大漁だよ。今年は当たり年かもね。」
「手伝うわ。」
 昔の人間が作った堤防の跡が途切れ途切れに残る。この季節はここに簡単な建物を立てて生活をしている。この上まで増水することはほとんどないし、なんと言っても固い地面の上は安心する。ウナギの罠も仕掛けやすいし。そう、ウナギだ。夜中にここを通り過ぎ産卵のため海に向かうウナギたちを引っ掛ける。遅めの朝食すぎにやってくるウエーデに卸す。ウエーデはお茶をいつも飲んでいく。彼は持参した砂糖をいつもスプーンに二杯入れる。彼にとってはこれからの一日のための一杯だが、僕にとっては眠る前の最後の一杯だ。ウナギ漁は夜の仕事だからだ。
「アキナスが言ってたって?」
「あいつはホラ吹きだけどよ。」
「宝、ねえ・・・」
「まー、まんざら根拠の無い話でもないけどな。」
 このあたりはローマの属領だった頃もあったらしい。当時はかなり高度に文明化されていたという話も聞いた。過去の遺構を調査するような類いの人間がウエーデの知り合いに居て、彼はそれがちょっぴり自慢みたいだ。