ウソ日記

ない。ある。

ロゾウ

 水耕栽培の蛍を一匹、60cm*80cm*80cmの箱に入れて様子を見る。3分ほど飛び回っているが、やがて底面に降り、発光を始める。発光は非連続的で、15ナノ秒の幅のパルス状の光を300ナノ秒から3マイクロ秒の周期で放出している。その周期変化によって彼らは情報を伝えているのだ。
 一般の蛍というのはほとんどが空気栽培であり、マヤマボタルの仲間らがレンチ栽培であるということを含めても、極端に水分の少ない環境で幼生時代をすごす。それらの蛍は発光の際にコンドロイシス回路を使うのであるが、それでは上記の周期は得られない。しかし、ロゾウ内で新しく発見された、いや、正確には再発見された、この水耕栽培の蛍の発光システムはセミパラミド系環物質の環破断発光を利用しており、瞬間的なパルス発光を可能にしている。この現象は現在では実験室での100万気圧以上のごく限られた環境でしか観測されてない。ロゾウ内で、どのような進化が起こされたのか、今後の研究しだいでは月時代の人類史の大幅な修正がなされることになるかもしれない。
 彼ら蛍の発光する様を、昔の人々は星に喩えたという。確かに、彼らは星だ。遠くにある星は、いかにも冷たそうに見えるものだが、手を触れればもちろん数千度の温度で焼かれる。