ウソ日記

ない。ある。

ナリタ

 反対側のナットがきちんと木を噛んでいてくれないので、ドライバーだけではネジが緩んでくれない。ペンチで掴んでいてもらう。ナリタ君はまだ若い。今年でようやく20だ。
「今度の13Cはけっこう手間かかりそうですね。」
「そうだな。」
 俺達の仕事は、二文字の数字と一文字のアルファベットで種類ごとに区別される。13Cというのはレシチンのバルブの点検修理だ。区画によって仕事の規模が全然違うが、来月末締めの13Cは第4鉱区の給配湯絡みでボイラーから酸洗場までのすり合わせが面倒だ。数も多い。それに、仕事はそればかりでもないのだ。
 ナリタ君の昼飯は弁当だ。水色のプラスチックの容れ物に入っている。俺の昼飯はシュークリームだ。いつも朝、駅前のコンビニで買っておく。
「や、水谷先輩のが昼飯カワイイですって。」
「ナリタ君の方だろー。愛妻弁当だろ?」
「あ、今日は僕の番ですから違います。」
「おまえウインナーをタコ切りにすんな。」
 ナリタ君は妻帯者だ。その言葉の響きと彼の外見と声と、顎に伸ばし始めたヒゲのイメージはまだ一致していない。