ウソ日記

ない。ある。

海賊船北へ

 潮の流れが穏やかな礁湖に浮かんでいた海賊船は、暑がりだった。この辺は彼らの縄張りで、内海の中でも島々と珊瑚が複雑に絡み合うところだ。彼らはこの海域を通行する船に通行料を要求し、払わなければその船を沈め、払うならばその海域での安全を保障した。だがそれも今日までだ。彼らは北へ行く。

 塩漬け肉と廃糖蜜蒸留酒、船倉を樽でいっぱいにして。

 古い地層をその岸壁に顕にした島々は、南では見られないものだ。石灰岩なのだが、出来つつあるところと侵食されゆく所の景観の差だ。物知りが言うには北の陸地が出来たのは南よりずっと前なのだという。その頃は人もまだいなくて、神様とオオカミと竜が互いに食い合いながら暮らしていたのだとか。もちろん俗話でいうブリティッシュマンなどは実際の話ではないのだ。

 海賊船はトロムセーの闇市で食料を補充し、さらに北へと向かう。スピッツベルゲンの海域には入れるのは夏のわずかな期間だけなのだ。