ウソ日記

ない。ある。

ナシ

 ナシといえばあれだ、曾祖母の生家の人が風などで傷んで出荷できなくなったナシをよくおすそ分けしてくれた。傷んだところというのはリンゴの蜜の部分のように茶色く透明になっているのだが、別にそれほど他の部分と味が違うわけではない。秋口の黄色いナシは僕たちの大事なおやつだった。
 僕の家の近くには細い沢があって、よく僕たちはそこを探検した。2mの壁が、僕らには大きな障害物だった。コンクリの砂防の断崖を、横の藪に逸れて登った。ナメクジの群れを蹴散らした。
 上流にさかのぼっていくと、あるところで、川は穴の中に消えていた。上を見上げると白いガードレールがあるのが分かり、道路が走っていると知れた。穴は小さく、もぐるのはさすがに恐ろしかった。何mもの急な斜面を登り、道の上に出た。
 腐ったナシでいっぱいだった。