ウソ日記

ない。ある。

アルハンブラ

 アルハンブラからなんとか帰ってこれないかと手紙を出した。宮殿があるところでスペインのどこかとしか認識していないが、それが恭雄のいるところだ。スペインといえばもちろんフラメンコで、恭雄は今それを習いに行っているという。私には女の人の踊りというイメージしかないのだが、それは偏見というものだと彼は言った。東京はいつもの通りの熱で、不透明な空気が物体の彩度を落とす。私が起きたアパートの対面の工事現場は、ここ数ヶ月工程の進んだ様子が見えない。何も食べる気が起きなかったので、さっさとズボンをはいて外にでる。
 汚い爆弾とやらは人を殺す力よりも地価を下げる力を強く持つ。地勢的にこの地区のもつ潜在的な地価の50分の1であるというのは、都市の力学をおかしくする。ガイガーカウンターを持ち歩けばいくらかのホワイトノイズを聞けるはずだが、許容量よりは低いのだという。アルハンブラからの絵葉書には、暖色の町並みとマットな青い空が上半分にある。下半分には恭雄の角々した文字。「ここでは雨がぜんぜん降らないよ」そんな情報は要らないのだが。